コラム

「糖がない」のに血糖が上がる?ブドウ糖を作る糖新生の新しい真実

2025.11.30/管理栄養士 菅原さち

あなたの体には、食べものから糖を摂らなくても、体内で勝手にブドウ糖を製造する驚異のシステムが備わっています。それが**糖新生(グルコネオジェネシス)**です。低糖質ダイエットをしているのに血糖が変わらない、むしろ上がる、という経験はありませんか?その謎を解く鍵がここにあります。

糖新生とは:体の「裏技」システム

糖新生とは、つまり、食べた糖以外の材料からブドウ糖を新たに作り出す経路のこと。要するに「糖を食べていないのに、肝臓と腎臓が勝手に糖を製造している」というわけです。

あなたの脳は、1日あたり120g程度のブドウ糖を必要とします。食べものから得られない場合、体は「糖を作れ」という指令を出し、肝臓と腎臓がこの役割を担当します。

実は、糖新生なしに私たちは生きられません。朝目覚めるとき、激しく運動するとき、深夜に勉強するとき―これらすべてのシーンで、体は静かに糖を作り続けています。

「材料」は4つ:何から糖は作られるのか

糖新生の最大のポイントは、炭水化物以外のあらゆるものから糖が作られるということです。

1. 乳酸(激しい運動のときの主役)

スピードトレーニングなど、強い負荷をかけた運動をすると、筋肉は酸素不足になります。この無酸素状態で筋肉が作り出すのが乳酸です。つまり、疲れた筋肉の「疲労物質」が、実は肝臓に運ばれてブドウ糖に変わっている、ということ。

最新の発見(2025年、東北大学・Nature Metabolism)によると、運動強度が高いほど、この乳酸経由の糖新生が活発化することがわかりました。要するに「激しく頑張れば頑張るほど、体は糖を作り出す」というシステムなのです。

2. グリセロール(軽い運動と空腹時の主役)

脂肪が分解されるとき、グリセロールという物質が生じます。つまり、あなたが蓄えている脂肪が、ゆっくりとブドウ糖に変わっているというわけです。

興味深いことに、ジョギングなど軽めの有酸素運動では、グリセロール経由の糖新生が活躍します。激しい運動ではなく、むしろ低強度で長時間の運動こそが、脂肪をしっかり使うシステムになっているのです。

3. アミノ酸(タンパク質からの変換)

タンパク質は「筋肉」だけではありません。タンパク質が分解されたアミノ酸も、ブドウ糖の「材料」になります。つまり、高タンパク質の食事をしても、その一部は血糖を上げるブドウ糖に変わってしまうということ。

「低糖質で高タンパクなら大丈夫」という説が必ずしも正しくないのは、この理由です。要するに、タンパク質も適度な量でないと、知らず知らずのうちに糖新生が活発になり、血糖値に影響を与える可能性があるのです。

4. 乳酸のもう一つの供給源:腸内環境

腸内細菌の活動も、乳酸の供給源になります。つまり、「腸の健康」も血糖管理に直結しているということ。これは最近注目されている領域で、まさに次世代の栄養学の焦点です。

肝臓だけじゃない:腎臓が主役になる時代へ

これまで「糖新生=肝臓」という固定観念がありました。しかし最新の研究は、腎臓も重要な糖新生臓器であることを明らかにしています。

千葉大学の研究グループは、ケトン体(特にβ-ヒドロキシ酪酸)の血液濃度と、腎臓の糖新生に関わる遺伝子発現に相関関係があることを発見しました。つまり、ケトン体の濃度が上がると(断食やケトン食のときなど)、腎臓が「今、糖を作る時だ」という信号を受け取る、ということです。

要するに、体は臓器間のネットワークで、「今どれくらい糖が必要か」という情報をやり取りしながら、柔軟に糖新生を調整しているという、驚くほど精密なシステムなのです。

酸化還元反応:糖新生のエンジン

最新の研究で注目されているのが、**酸化還元反応(NAD+とNADHのサイクル)**の重要性です。

つまり、糖新生は単に「材料から糖を作る」という単純な反応ではなく、電子のやり取りが関わる複雑な化学反応の連鎖だということ。2025年の東北大学の研究では、肝臓の酸化還元反応を促進させると、糖新生が亢進し、さらには運動持久力まで向上することが確認されました。

要するに、「体の中の電子がどう動くか」が、実はエネルギー管理と密接に結びついているということです。これは従来の栄養学では見落とされていた視点です。

ダイエットと低糖質食の落とし穴

ここまで読んで、あなたは気づいているかもしれません。

「糖を食べないから血糖が上がらない」という仮説は、実は間違っている可能性があるということです。

低糖質食を続けている人が、時に血糖値が変わらない、むしろ上がることすら報告されています。その理由は、体が次々と糖新生を起動し、タンパク質やグリセロールから積極的にブドウ糖を製造しているから。つまり、糖新生は生存のための防衛システムなのです。

「糖を制限する」という戦略よりも、「体がどのタイミングで、何から糖を作るのか」という生理学的なメカニズムを理解することの方が、実は血糖管理には重要かもしれません。

次の時代の血糖管理:「制限」から「理解」へ

糖新生の研究は、今まさに黎明期を迎えています。

臓器間ネットワーク、ケトン体の役割、酸化還元反応、腎臓の糖新生機能―これらの新しい知見は、私たちの「正しい栄養管理」の定義を大きく変えようとしています。

要するに、これからの栄養学は、「何を食べないか」よりも「体の中でどんなシステムが働いているのか」を理解することに重心が移っていく、ということです。

あなたの体は、たった一つの正解を求めていません。むしろ複雑な調整のなかで、その時々に最適な状態を作り出そうとしているのです。


参考文献・最新研究

  • 東北大学(2025)「運動強度に応じた糖新生基質の切り替え」Nature Metabolism

  • 千葉大学(2023-2025)「臓器間ネットワークを介した腎糖新生制御とその生理学的役割」文部科学省基盤研究

  • Melkonian et al. (2024) 「脳とエネルギー代謝の最新知見」


Note:この記事は登録済み栄養士による最新の科学的根拠に基づいています。個人の血糖管理に関する具体的なご相談は、医療専門家にお問い合わせください。

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