結論から書きます。同じものを食べても、罪悪感とセットで食べる人のほうが、その後の減量がうまくいきにくいというデータがあります。太らせているのはケーキだけではありません。ケーキのあとに来る「最低だ」のほうが、次の食べすぎを連れてきます。
エビデンスの強さ:中(実験研究と18ヶ月の追跡研究はあるが、多くが女性・欧米圏のデータで、日本人での大規模検証はまだ乏しい)
チョコレートケーキで18ヶ月を追った研究
ニュージーランドの研究で、300人ほどの成人に「チョコレートケーキと聞いて、罪悪感とお祝い、どちらを連想しますか」と尋ねました(Kuijer & Boyce, 2014)。
罪悪感と答えた人たちは、お祝いと答えた人たちと比べて、食べ方を自分でコントロールできている感覚が低く、減量を試みた人では3ヶ月後の体重維持の成績が悪く、18ヶ月後も減量に成功していませんでした。
連想ひとつでこの差です。ケーキの成分は両グループで同じです。
ドーナツを食べさせてから測った実験
もうひとつ、こちらは実験です(Adams & Leary, 2007)。
食事制限をしがちな女子学生に、研究の名目でドーナツを食べさせます。ダイエット中の人にとっては「やってしまった」状況を人工的に作るわけです。そのあと半分のグループにだけ、こう伝えました。「みんな食べています。こんなことで自分に厳しくしないでください」
その後のお菓子の試食テストで、この一言をもらったグループは食べる量が少なく済みました。何も言われなかったグループは罪悪感が強く、そのぶん多く食べました。
つまり、自分を責めることが次の過食の燃料になります。逆に言えば、責めるのをやめるだけで食べる量が減った、ということです。
「どうにでもなれ」には名前がある
この現象には1975年から名前がついています。counterregulation、通称 what-the-hell effect(どうにでもなれ効果)です(Herman & Mack, 1975)。
ダイエット中の人は「今日はもう破ってしまった」と認知した瞬間に、満腹を超えても食べ続けることが実験で繰り返し確認されています。面白いのは、実際のカロリーは関係ないことです。低カロリーの飲み物でも「高カロリーだった」と信じ込まされると同じ崩れ方をします。崩れの引き金は「破った」という認知そのものだった、ということです。
私は食事記録をこれまで2000人分以上見てきましたが、このパターンは記録の上で驚くほどきれいに現れます。「食べすぎました。最低です」という報告の翌日に絶食に近い記録が来て、その2〜3日後に大きな過食が来る。この並びを何百回も見ました。本人の性格は関係ありません。順番がいつも同じなんです。
弱点も正直に
いいことばかり書いたので、この話の限界も書いておきます。
まず「誰にとって」の限定があります。罪悪感からの過食が実験ではっきり出るのは、主に食事制限をしている人(心理学ではrestrained eatersと呼びます)です。もともと制限していない人は、罪悪感を持ってもあまり崩れません。要するに「制限×罪悪感」の掛け算で起きる現象で、罪悪感単体が万人を太らせるわけではありません。
次に、Kuijerの研究は観察研究なので、罪悪感が原因で痩せられないのか、痩せられない経験の積み重ねが罪悪感を作ったのか、矢印の向きは完全には切り分けられていません。両方でしょう、というのが正直なところです。
最後に当たり前のことですが、罪悪感さえ消せばカロリーが消えるわけではありません。ここを飛ばして「幸せに食べれば太らない」まで行くと、それはもう栄養学ではなくスピリチュアルです。
じゃあどうするか
食べすぎた日の翌日にやることは、たったひとつです。いつも通りに食べる。
絶食も、リンゴだけも、糖質ゼロも要りません。1回の食べすぎは、月単位の体重で見ればほぼ誤差です。それを取り返そうとする絶食のほうが、2〜3日後の過食を呼んで高くつきます。
自分を責める言葉が出てきたら、友達が同じ報告をしてきたら何と言うかを考えてみてください。「最低だね」とは言わないはずです。その言葉をそのまま自分に使う。甘やかしに聞こえるかもしれませんが、上のドーナツ実験のとおり、こちらのほうが結果として食べる量が減ります。優しさは根性論の逆側にある、いちばん実用的な技術です。
一言まとめ
1回の食べすぎは誤差。太らせるのは翌日の絶食とその反動のセット。食べすぎた翌日の正解は、いつも通りの朝ごはん。
参考文献
- Kuijer, R. G., & Boyce, J. A. (2014). Chocolate cake. Guilt or celebration? Associations with healthy eating attitudes, perceived behavioural control, intentions and weight-loss. Appetite, 74, 48-54.
- Adams, C. E., & Leary, M. R. (2007). Promoting self-compassionate attitudes toward eating among restrictive and guilty eaters. Journal of Social and Clinical Psychology, 26(10), 1120-1144.
- Herman, C. P., & Mack, D. (1975). Restrained and unrestrained eating. Journal of Personality, 43(4), 647-660.
- Tomiyama, A. J. (2014). Weight stigma is stressful. A review of evidence for the Cyclic Obesity/Weight-Based Stigma model. Appetite, 82, 8-15.
研究が更新されたら書き直します。指摘は歓迎です。